■ Jamu(ジャムウ)とは

Jamu をひと言でいうと、スパイスやハーブを調合したものです。現代では主に飲み物という形で提供されています。

ただ、これだけではインドネシアの長い歴史の中でいまだにインドネシアの人々が日常的に飲んでいる答えにはなっていません。
なぜなら Jamu は「美と健康の維持・増進・回復」を願う人々への愛情の一つの形だからです。

よく Jamu =中国の漢方薬 と説明する人もいますが、スパイスやハーブを原料に活用するという点や健康や病気に対応するという点では似ています。違いは漢方は漢方医が処方する医療の一部ですが、Jamu は家庭でつくる家族の健康を願う気持ちがベースにあります。

Jamu の語源は、
ジャワ語の Jampi Usodo(健康への祈り)です。

■ 現代の私たちにも通じる
「健康哲学」Jamu

Jamu は「自分の身体や心に起こっているトラブルを治す」という目的のものではありません。

心も身体も、あるいは精神状態なども含めて、「いつも健康な状態で過ごせるように」「なるべく病気にならないように」という「健康でありたい」という願いを込めて、身近にあるスパイスやハーブで作った Jamu を飲み、マッサージを行います。「 Jamu とマッサージと祈りがあれば人々は健康でいられる」とインドネシアの人々は古くから信じており、現代でも日常的に実践している「健康哲学」なのです。

Jamu のレシピは、人々の経験則に基づき確立されてきました。

例えば、
風邪をひいたかも、あるいは風邪をひきそうだなぁと感じたら、A と B と C のスパイスを調合して飲む。
今朝は体がだるいなぁと感じたら A に D と F を加えて飲む。
お腹の調子が悪いなぁと思ったら、E と F と G を合わせて飲む。
毎月訪れる生理がきつい、あるいは不規則、またその期間を快適に過ごしたい...などの思いから、C と D を飲んでみる。


Jamu はいつも人生のすべてのステージと向き合っています。
日常的に起こる健康への不安や悩みに対してそれらを解決できるレシピが何世紀にもわたって伝えられ、今でもインドネシアの人々に愛され、飲まれています。

21世紀の現代、原料となるスパイスやハーブなどの研究から、「経験則によって飲まれていた Jamu が理にかなっていた」ことが明らかになっています。

「 Jamuとマッサージと祈りがあれば人々は健康でいられる」と信じられてきた考えは、

現代の私たちに通じる「健康哲学」なのです。

■ Jamuの歴史

Jamu がいつからあったのか? その答えははっきりとは分かりません。
ジャムウの起源が明らかに分かるのが、8~9世紀に建てられた世界遺産「ボロブドゥール」のレリーフに刻まれた「カルパタルの樹」(不死神話が伝えられている樹)の葉をすり潰している姿やマッサージをされている姿、Jamu らしきものを飲んでいる姿です。

また、Jamu づくりに使われている石臼やすりこぎが、中央ジャワの遺跡から発見されました。この遺跡は8~10世紀に栄えた古マタラム王国の時代のもので、Jamu がすでにこの時代には始まっていた証となっています。年月が分かる最古の写本として「チェンティニ本集(Serat Serat)」(ジャワ地方に伝わる伝説や教えを詩の形式で書かれた書物)(1814年)がありますが、オリジナルがいつ作られたのかは分かっていません。

■ Jamu Gendong
(ジャムウゲンドン)の役割

=Jamuを全国に広げた存在

遥か昔から飲まれていた Jamu ですが、もともとはジャワ王宮(ジョグジャカルタやスラカルタ)内で高貴な人々の飲み物として処方されたり、美容術として素材が使われたりしていました。それらの秘伝が王宮からインドネシア全体に広がりました。

その役割を担ったのが、ジャムウゲンドン(ジャムウ行商人)です。ジャワ王宮で伝えられていた Jamu の考え方やレシピを伝える役割を担いました。そして今でもジャムウゲンドン(主に女性)たちは、毎朝様々な Jamu を台所で作り、市場や路上で、その場で数種類のジャムウを合わせたりしながら売っています。

特にジャムウゲンドンは女性が担う職業の一つであり、男性には相談できない女性特有の症状や悩みを聞き、Jamu とともに相談相手としても信頼される存在となっています。この存在が、Jamu は女性の物語であり、家族の物語である所以です。そして興味深いのは、それぞれのジャムウゲンドンが、それぞれの配合で作られているため、同じ名前の Jamu であっても味や濃さなどが微妙に異なり、当然、地域によっても異なる素材が使われていることです。

昔からインドネシアでは「 Jamu は、その場所の土壌、温度、天候などによって育った素材を使うことが、その土地の人々にとって効果を発揮する」と言われています。

■ Jamu 調合師・
Acaraki(アチャラキ)

1400年代のマジャパヒト王の時代に、高貴な方々に Jamu の素材となるスパイスやハーブを調合する人々がいました。

それらの調合師には名誉ある称号・Acaraki(アチャラキ)が与えられました。
Acaraki は祈祷や瞑想を行い、Jamu を作る前には、ポジティブなエネルギーを得るため、また究極の治療師として神に認めてもらうために、断食を行っていた、と伝えられています。